平日は、私の部屋で過ごし、いよいよ週末、金曜日の夜になった。
律樹も当たり前のように、私の部屋に帰って来る。 「今日から俺ん家に行こうな」と言う律樹。 「明日じゃないの?」と言うと、 「明日と明後日は休みだから、また日曜日にはこっちに戻って来るでしょう?」と、 「そっか……休みの前の日だけ律樹の部屋ね」 「うん」 そして、私は、律樹の部屋に持って行く荷物をスーツケースに詰めた。 女子が移動するとなると案外荷物が多くて大変だ。 「え? 凄い荷物!」と驚く律樹。 「だって、これでも必要最低限だよ」と言うと、 「う〜ん、もう俺ん家に置いておけるものは置いていいよ」 そうだけど、両方で使う物もあるから、二重生活は、やっぱり大変だ。 「今日は外食して、帰りに必要な物を色々買い揃えに行こう! なら置いておけるでしょう」と言ってくれた。 そして、スーツケースを開けると、 「それも、これも、買えば良いから」と律樹に言われ、とりあえずの着替えとすぐに必要な化粧品類ぐらいで良いと言う。 荷物が ぐ〜んと減った。 「何食べたい?」と言うので、 「う〜ん、今日はお寿司の気分かな〜?」と言うと、 「OK、よし寿司行こう! 俺んちの近くに美味い寿司屋、あるんだよ」と言った。 2人で一緒に電車に乗っているところを見られると、会社の人にもすぐにバレてしまうので、タクシーで移動することにした。 バレても良いのだが、まだ今じゃない。 律樹の言う、『美味い寿司屋』さんは、高級で回っていなかった。 ──全然回ってても良かったのに…… 思わず支払い大丈夫? と思ってしまった。「おはよう〜」 「おはよう〜」 「あれ?」と昨夜のことを思い出す。 律樹が私をジーッと見つめて微笑んでいる。 「あっ、ごめん」と言うと、 「ふふ、疲れてたんだもんな」と私の髪を撫でる。 「うん」 「新婚初夜だったけどね」と言われて、ようやく気がついた! 「ああっ! ごめ〜ん! やっちゃった」と言うと、 「ううん、やってないの」と微笑む律樹。 「ふふふっ、そうだけど……」と苦笑する。 そして、私をぎゅっと抱きしめて、 「じゃあ、今夜楽しみにしてる」と言われた。 「!!!!」 ──ヤダ〜もう〜朝から夜の約束だなんて…… 「ふふ〜」と笑って誤魔化しておこう。 チュッとされた。 「早く支度しないと遅れるよ〜」と…… 「ああ〜そうだった!」 今日からずっと律樹の部屋から出勤するんだった。 早くしなくちゃ…… と、バタバタ身支度をしていると、先に終えた律樹が朝食を作ってくれている。 「えっ、嘘! 凄〜い」と、パチパチ拍手する。 「出来る方がする!」と言ってくれる。 「ありがとう〜」頬にチュッとすると喜んでいる。 私は、隣でお弁当を詰める。 「ごめん、常備菜いっぱいだけど……」 「ううん! 嬉しい、ありがとう」 「他の課長たちと一緒に食べなくて良いの?」と、 聞いたが、 「一緒に食べる時も愛妻弁当が良い!」と言って、 チュッと唇にする律樹。 「あっ! ふふ」
喪服から、今度は、綺麗めの白のワンピースコーデに着替えた。 結婚指輪を買いに行くので、なんとなくカジュアルなスニーカーではなく、久しぶりに7cmヒールのパンプスを履いてみようと思う。 「みあり、可愛い」と律樹は、何でも褒めてくれる。 律樹は、白の長Tに黒のパンツ、オシャレなライトグレーのジャケットを羽織っている。 「カッコイイ」と思わず言ってしまった。 「だろう?」と喜んでいる。 「ふふ」 ──だから、モテちゃうんだよね 律樹は、背が高く185cm有るので、私の身長158cmだとヒールを高くしないとバランスが良くないような気がする。 そんなこと、周りは、誰も気にしていないのに…… でも、結婚式とかだと皆んなの前で隣りに並ぶから気にするよね〜と、1人で考えていて…… ──そう言えば、結婚式は、しないのかなあ? と、ふと思った。 私は、式を挙げなくても2人で、写真は撮りたいな〜ウェディングドレスを着てみたい! と思っている。 若いうちに……皆んな今日が1番若いのだから、1日も早い方が良い。 「ねぇ、律!」 「ん?」 「結婚式は、しないの?」と聞いてみた。 「やろうよ! やりたい!」 と言う律樹。 「そうなんだ……」 「ん? みありは?」 「うん、ウェディングドレスを着て、写真だけは撮りたいから、フォトウェディングが良いかな!」と言うと、 「え〜〜! お父さんの立場上、結婚式は、して欲しいんじゃない? 俺もしたいし」と、言われて、 「そうかなあ? まだ会社の人は、私と父が親子だとは知らないよ」 と、言いながら……
「え? 父は母に会ったの?」 と律樹に聞くと、 「お母さんが入院されてた時に、みありが病院から帰ったあと電話で呼び出されて、一度だけお見舞いに行ってお会いしたらしいよ」と言われた。 そして、更に、 「お母さんから『亡くなってすぐは、きっとみありは、大変だと思うから、落ち着いた1周忌の頃に、この手紙を渡して欲しい!』と頼まれたようなんだ」 その手紙をジッと見つめる。 怖くて開けられない。 「お父さん、さっき、みありに渡そうと思ったようだけど、これから入籍に行くのに……って。だから無事に入籍したら、俺から渡してやって欲しいって頼まれた」 開ける前から、涙が流れてしまう。 「大丈夫か?」と、抱きしめられる。 「うん、隣りに居て!」と律樹に頼んで、 2人でベッドにもたれて座る。 律樹が私の腰に手を回してくれている。 ゆっくり封を開ける。 便箋を開くと、母の弱々しい文字が並んでいる。 ────みありへ みあり、あなたがこの手紙を読んでいる頃には、 もう私は、この世に居なくて……1年が過ぎた頃かしら? お父さんに、そうお願いしたからね。 病気になんてなってしまってごめんね。 自分でもこんなに早く逝くとは思ってなかった。 もう少し、みありと過ごしたかった。 だから、最後に我儘を言って、家に帰りたい! だなんて、みありに、いっぱい負担をかけるようなことをして、本当にごめんなさいね。 それでも、やっぱり最後は、3人で過ごした、あの家で過ごしたかったの。 お父さんが居なくなって……みありから、父親を奪うようなことになってしまってごめんね。 お父さんとの離婚原因、最後までき
朝からバタバタと身支度をする。 まだ、1周忌法要なので、黒の喪服を着る。 母の遺影に向かって、 「お母さん、ありがとう。今日納骨するね」と、挨拶をした。 納骨する日に決まりはなく、いつしても良いとされている。 四十九日では、まだ離れ難く、1周忌には、お寺さんの納骨堂に納骨しようと思っていた。 母は、生前『みありが大変になるから、お墓は要らない。たまに、思い出した時にでも、お寺さんに参ってくれれば良い』と言っていた。 そんな話は、もっともっと先のことだと思っていたのに…… お寺に着くと、父が既に到着していた。 「ありがとうございます」と言うと、 深々と頭を下げている。 そして、律樹のご両親と、弟の蒼太さんも来てくださった。 なぜか島田さんまで来てくださっている。 「え?」 「来たいって言うから……」と、律樹。 お礼を言った。 そして、蒼太くんが、 「すみません、朱音は、体調を考えて遠慮させていただきました」と。 「いえいえ、もちろんです。お気持ちだけで、ありがとうございます」とお礼を言った。 そして、初めて私の父に会う、律樹のご両親。 初めまして……が、まさかの母の法要の日。 ご挨拶と共に、手土産案件に対して、深々と頭を下げて、お礼を言われているご両親。 元々、私1人で納骨しようと思っていたので、叔父叔母には、声を掛けなかったのだ。 母は、若い頃に両親を亡くしているので、私は祖父母の存在を知らない。 そう言えば、父方の祖父母は、健在なのだろうか。 追々聞きたい。 なので、今日は、母方の叔父叔母が居れば、父も離婚している手前、居
父との対面後、帰るタクシーの中で、律樹はずっとハイテンションだった。 ようやく頭を悩ませていたことから解放されると思ったからホッとしたのだろう。 私の名前を呼んでベタベタしてくる。 「みあり〜」「みあり〜」と、 手を握っては撫でて……ずっとこの調子だ。 「は〜い〜」と返事するのも疲れて来た。 「あ〜良かったね〜」と何度も言っている。 完全に酔っている。 「うん、良かったね〜」 「みあり〜愛してるよ〜」 「ふふ、恥ずかしいから……」と、タクシーの中では、律樹の口を押さえる。 ようやく律樹のマンションに帰宅。 明日は月曜日だが、3連休でお休みなので良かった。 まだお昼の2時半を過ぎたばかりだ。 酔っている律樹をそのまま寝室まで連れて行き、ベッドで寝かせることに…… 「おやすみ」と寝かせた。 私は、部屋着に着替えて、1人でお水を飲みながらリビングでボーっと物思いに耽った。 父の存在…… あの人が本当に、私の父なんだ! 父と母との会話、やはり母は離婚していても、いざと言う時には、父を頼っていたのだと分かった。 特に、遺される私のことを1番に心配して、 父に頼んでくれていたんだ。 そう思うと、やはり涙は流れる…… そして、私は、ひとりぼっちじゃなかったんだ! と思った。 母が亡くなって、親戚の叔父さん叔母さんは、居るが父の記憶はなく、兄弟も居ない。 律樹とも別れていた頃だったから、本当にひとりぼっちになったんだと思っていたのだから…… 私は、ベランダに出て、
結局、昨夜は律樹に押し切られて、 長〜〜〜〜い夜を過ごした。 なので、疲れたのだろう。 まだ律樹は隣りで眠っている。 私は朝早くから目が覚めてしまった。 やはり、緊張しているのだろうか…… 起き上がってしまうと律樹を起こしてしまうので、 しばらくジッとしたまま、律樹の寝顔を隣りから眺めている。 ──綺麗な顔立ち、寝顔もイケメン! というか、律樹の全部が好きだから、何でもそう見えてしまうものなのかなあ〜 と、私は、ボーっと律樹を見ながら物思いに耽る。 今日は、実の父だと思われる人に会いに行く…… 何から話せば良いのだろう。 とりあえず、私のことは、いつから分かっていたのか? それに、律樹とのことも知っていて、この会社に誘ったのか? それと、そもそも母とはどうして離婚してしまったのか? それすら、母と話せないまま、お別れすることになってしまったのだから……。 ジーッと見つめていると、律樹が目を開けた。 「あっ! みあり、おはよう〜もう起きたの?」と言う。 「うん、おはよう〜」 私は、律樹を抱きしめて、胸に顔を埋めた。 「ん? どうした?」と優しく聞いてくれる。 「ちょっと怖い……」と言うと、 「そっか、大丈夫! 大丈夫! 俺がそばに居るからな」と言ってくれる。 「うん、